またの冬が始まるよ


“目覚めたそばに きっといて”



今日の目覚めは一瞬で、
直前までどんな夢を見ていたのかもないくらいに、
そりゃあ呆気なく現世へ意識が浮上したものだから、

 “…あれ? 私ったら居眠りしてた?”

世間様ではともかく、身近間近では特に騒動も起きぬまま、
それは穏やかなお正月は、過ぎてしまえばあっという間で。
気候の方も暖かないいお日和が続く中、
七草も過ぎての、あとは小正月を待つばかりというところ。
それでなくとも“サンデー毎日”な有給中の自分たちには、
そもそも年末年始も三が日も 仕事始めも特に区別はないよなもので。
それでも、テレビ番組の編成が通常のそれへ戻ったりとか、
ごみの収集が始まったりとか、
お外で出逢う人とのご挨拶に“明けまして”がつかなくなったりとかいうのへ、
ああお正月も終わったんだねぇなんて
こちらも通常のお献立、野菜たっぷりの煮込みうどんを鍋でつつきつつ、
イエスと二人、妙にしみじみと感じ入ってたのだけれども。

 “…いやいやいや。居眠りなんかじゃなくって。”

だって総身へ沿う柔らかな毛布の感触がするし、
足元だけじゃなく全身が均一に暖かいので、
これは間違いなくしっかりと布団の中だ。
ということは朝なんだと、なめらかに連動する意識が次に拾い上げたのは、
うっすら開いた視野の中が淡く明るいこととそれから、
頬に触れ、枕へもこぼれて絹の布のように広がっている、
深色をした豊かな量でほどけたままな長い髪。
こういう状態で目覚めたということは…

 「………あ。/////////////」

そかそか、昨夜は……そういう寝付き方をしたんだっけと。
思い出したというよりも、
こうだからああで、そうだからこうと、順序立てて辿った末に想いが至った現状なのへ、
そのままあっさり真っ赤になるあたり。
まだまだちいとも割り切れてないし、
開き直れるほど落ち着いてもない、純情な釈迦牟尼様だったりし。

 “あ〜〜っと、えっとぉ。////////”

壁の向こうのそれだろう、
物音がコトコトしないではないのだが、
窓の外からの話し声なども届かないではないのだが。
室内がしんと静かなせいだろう、いやに遠いところの存在に思えてならず。
そんな中にてぼんやりと、横になったままという手持無沙汰なものだから。
ぼんやりしたままの思考がよたよたとした綱渡りを始めてしまい。
あんなところがああもくすぐったいとは思わなかったなぁとか、
イエスって大きな手なのに、いつもはちょっぴり不器用なのに、
抱き合ってる時だけ妙に器用になるものか
あんな思わぬところへ指が届くんだものなぁとか。
不意打ちで撫でられたからかな、
くすぐったいというか ザワってしちゃって。
体の奥底で何かをツンと弾かれでもしたか、
かぁあと熱くなったまま 何かが体の芯をじゅんととろかして。
そのまま変な声が出そうになって恥ずかしかったなぁとか。
こうだからああで、そうだからこうという、順序立てて辿ったついでに
ぼんやりとしたまま昨夜のあれこれをついつい辿りかけ、

 “……っ、そうじゃなくって。//////////”

思い出すあれこれが鮮明になりかかり、
自分の指先でついついなぞってた鎖骨辺りのくすぐったさに
はっと我に返ったその弾み。
まだ少しほど曖昧で寝ぼけていたらしい意識の方も、冴え冴えと覚めてゆき。
…と同時に、朝っぱらから何を回想してるんだ私と、
恥ずかし〜ぃと改めて真っ赤になりかかり、
まだ頬の半分ほどを埋めたままの掛け布団の襟を掴みしめ、
やだやだと潜り込み直しつつ、

 “………あれ?”

なんか変だと、やっと気づいた。
というか、
妙な恥じらいを招いちゃった昨夜のあれこれへの思い返しなんて、
そういやこれまで 一度だってしたことなかった筈で。

 “………あれれ?”

布団の中をあちこちまさぐり、
左右の端から端までを手で撫でまわし、
足元は白いくるぶしがちょっと痛くなるほどごしごし擦って
やはり隅々までを探ってみたが、
布団の下の毛布がぐるぐる丸まってしまっただけで、
何処にも何にも見つからない。

 “なんで?”

どうして目覚めに彼が居ないの?
どうして布団の中に自分だけなの?
ぼんやりしていると大きな手で髪を撫でつつ梳いてくれて。
頬を伏せたままの暖かい胸板をいいお声で震わせて、
今朝はお寝坊さんだねと、くすくす微笑ってくれるから。
昨夜のことは ちらとしか、
そうだったそれで寝過ごしたんだなとしか、思い出さない自分じゃなかったっけ?

 “匂いはするのに…。”

枕や布団にバラの香りもそのままに、少しほどの温みさえ居残して。
なのに本人は何処にもいないというのを悟った途端、
急に心細くなり、布団の襟から顔を出す。
カーテンを開けられた六畳間は淡い朝の明るみを満たしており、
布団を二組敷いてしまったらそれだけでぎゅうぎゅう詰めなのが、
明るい中だといやに取っ散らかって見えもして。

 「いえす?」

身を起こしてぐるりと見まわすが、
狭い部屋だ、隠れる場所なんてそうありはしない。
視線が止まったのは押し入れの襖だが、
まさかに押し入れに隠れているとか?
まさかまさか、だって何でそんなことをする必要があるの。
何かしら怖いものが現れてとかいうのなら、何でこの自分を起こさないの?

 「いえすぅ…。」

いつぞやみたいに天界から急な迎えが来たっていうの?
だとしたって、じゃあどうして起こしてくれなかったの?
だんだんと心細くなってきて、
確かめようはないではないのに、何かが判るのが何だか怖くて。
それでのこと、スマホに手を伸ばせないまま、
掛け布団をお膝にたくし上げての床に座り込んだまま。
置き去りにされた仔猫のように、
不安そうに辺りの気配を嗅いでおれば。

 「  ……ですね。は〜い。」

そんな声が外から聞こえ、
はっとして見やった玄関の方からスニーカーの足音がして。
ややあってがっちゃとドアが開き、
ごそごそという気配が何とももどかしいのをそれでも待てば、

 「うう〜〜。寒い寒い。」

綿入れのどてらを羽織った肩を縮めて、
やや大仰に寒い寒いという素振りをしつつ上がってきたのが、

 「あ、起きてたんだ。おはようブッダvv」

そりゃあにこやかに朝のご挨拶を送るイエスだったのへ。
ひゅんと空を切って飛んでったのが…彼ら愛用の枕が、それも続けざまに二つとも。

 「わあ。」

見事にばすんと当たったそのまま、最初の一つを楯にして、
頼むから布団まで抱えて投げないでねとじりじり歩みを進めつつ、

 「何なに、なに怒ってるの、ブッダ。」
 「知らないっ

恥ずかしかったり寂しかったり、そのまま不安になっちゃったり。
ほんの数分という短い間に、
居ないイエスに振り回されちゃったのが、何だか悔しいやら切ないやら。
未熟だと思うより、よくもぼっちにしましたねと、
そっちのお怒りの方が大きい辺り。
まだ髪が結い直せないほど、気持ちの動揺は収まらない釈迦牟尼様であるらしく。
物こそ飛んでこなかったれど、怒っているのがありありし、
あのあのと枕の陰から覗くよに、六畳間の手前のところで様子を伺っておれば。

 「…いつまで、独りにしとくつもりなの。////////」
 「あ、あっあっ。ごめんね、ごめん。」

枕を放り出し、すぐの足元まで来ていた布団の上へとすんと膝をつくと、
そこからわしわしと四つ這いで進んで、
ご機嫌悪しという様子のまんまな、最愛の如来様のところまでを辿り着く。

 「ごめんたら、ぶっだぁ。」
 「どうして居ないの。」
 「だからさ、今日って資源ごみの日だったんで、
  出しそびれたらまずいなと思って。」

ペットボトルや空き缶は月に二度だが、古新聞や雑紙は月に一度しか回収されぬ。
出しそびれると、次の回収日まで部屋の中で邪魔になるの、
ブッダが嫌がっていたのを思い出し。
懐の中の愛しいお人の寝息を数え、
まだ起きそうにないかなぁと見澄まして、こそそと大急ぎで外まで出しに行って来たという。

 「……起こしてくれたらよかったのに。」

結句、そこが気に入らないと、
口許が尖ってしまうのは否めない。
我儘な言いようだとは判っちゃいるが、
先程感じたあの不安はちょっと例のないそれだったし、

 「私を残してどっか行けちゃうんだ、キミってば。」

置いてかれたというのがよほどに堪えたらしいのへ、

 「……う〜んと、それはちょっと違う。」

さすがにイエスも言いたいことはあるらしく。
ブッダのお膝にかかってる羽毛布団の襟元を掴むと、
よいせと腰を浮かせて…あっという間の手際よく、
身を寄せながら同じ布団の中へと入り込む。
え?と多少は驚いたらしい、正しく不意打ちに遭い、
キョトンとしているブッダのふんわり柔らかい肢体を腕の中へと取り込むと、
耳元へやんわり口許当てて差し上げて。

 「あ…。///////」

口髭のチクチクに やぁんと首をすくめて力が抜けたのへ、
ますますと腕を回してしまい、
逃げないように跳ね除けられないように、しっかと抱きすくめた愛しいお人。
くすぐったさに身をすくめたその様子の愛らしさへお顔はついつい緩んだが、
気を取り直すと何で不在だったかを話すこととする。

 「だからね、起きるまでに駆け戻ろうって思っただけ。
  そのままどっか行けちゃうなんて、心外も甚だしいよ。」

たださ、そこで松田さんに呼び止められたのは誤算だったけどと。
そんな風につけたして、
額の白毫…のあったところにも柔く小さなキス一つ。

 「あ…そこは、やだ…。///////」
 「んん? くすぐったい?」

やだやだと軽く身じろぎをするのを布団の中へと下ろしてあげて。
そのまま自分も寄り添って、
さあそれじゃあお目覚めをやり直そっかと微笑むところが、
大物なんだかお暢気なんだか。
まだどこかお正月ムードのまんまな最聖のお二人なのへ、
お布団があてられて またぞろクラスチェンジをしませんようにvv






   〜Fine〜  16.01.10.


 *拍手お礼にしようと思ったのですが、
  長くなったので通常のUPとしました。
  イエス様としては、
  毎朝 目が覚めたそのまま、
  さっさとジョギングにと出てっちゃうブッダだってことを
  引き合いに出すのはよろしくないと思ったようで。
  恋すると人は強くなるんですねぇ。(笑)


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